第2回・本当は怖い「遠野物語」再読 


「遠野物語」といえばロマンチックなイメージを抱いてる人も多いかもしれないけど
実際は背筋がゾクゾクするような怖い話が多いんですね。

そんな遠野怪異譚の中でも最も怖い話を。

この長蔵の父をもまた長蔵という。代々田尻家の奉公人にて、その妻とともに仕えてありき。若きころ夜遊びに出で、まだ宵のうちに帰り来たり、門の口より入りしに、洞前に立てる人影あり。懐手をして筒袖の袖口を垂れ、顔は茫としてよく見えず。妻は名をおつねといえり。おつねのところへ来たるヨバヒトではないかと思い、つかつかと近よりしに、奥の方へは遁げずして、かえって右手の玄関の方へ寄る故、人を馬鹿にするなと腹立たしくなりて、なお進みたるに、懐手のまま後ずさりして玄関の戸の三寸ばかり明きたるところより、すっと内に入りたり。されど長蔵はなお不思議とも思わず、その戸の隙に手を差し入れて中を探らんとせしに、中の障子は正しく閉してあり。ここに始めて恐ろしくなり、少し引き下らんとして上を見れば、今の男玄関の雲壁にひたとつきて我を見下すごとく、その首は低く垂れてわが頭に触るるばかりにて、その眼の球は尺余も、抜け出でてあるように思われたりという。この時はただ恐ろしかりしのみにて何事の前兆にてもあらざりき。  (遠野物語77話)



深夜に怪しい男が玄関から入るのが見えて
追って玄関の戸を開けたら障子は閉まっていて、
不思議に思って少し下がってふと上を見上げたら
壁の上に男が張り付いていてその顔が間近にあった。
しかもその目は30㎝も飛び出ている・・・。

明らかに聞き手をビビらせようとしている怪談。

ホラー映画「呪怨」の伽耶子みたいな感じです。
ふと振り向いたり、目が覚めたら、
逆さから伽耶子の顔が・・・みたいなシーンあったでしょ?

こういうところが現代Jホラーの原典を感じた所以なんですね。


ところで、これと似た話がもう一つ登場する。

栃内の字野崎に前川万吉という人あり。二三年前に三十余にて亡くなりたり。この人も死ぬる二三年前に夜遊びに出でて帰りしに、門の口より廻り縁に沿いてその角まで来たるとき、六月の月夜のことなり、何心なく雲壁を見れば、ひたとこれにつきて寝たる男あり。色の蒼ざめたる顔なりき。大いに驚きて病みたりしがこれも何の前兆にてもあらざりき。田尻氏の息子丸吉この人と懇親にてこれを聞きたり。  (遠野物語81話)



壁に張り付く男である点は同じだが、
今度は青ざめた顔でひたすら寝ているだけで目も飛び出ていない。

家に繁栄をもたらすとされる”座敷童”も
姿をあらわす際は「呪怨」の俊雄クンと大差なくて気味が悪いけど、
この”壁男”は描き方からして幸福をもたらさないのは明らか。

だからと言って、災厄をもたらす悪霊というわけでもないようだ。

この話はどちらとも、
遠野の土淵村・山口で最も裕福な田尻家周辺に由来するものであり、
その他多くの悪縁話とは違って、
少なくとも「遠野物語」出版時点で没落していたわけではなさそうだ。

田尻家は悪霊か悪い妖怪に憑りつかれているようにしか思えないが・・・。


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